インタビュー

今日から始まる『みんなに聞く』シリーズでは、LGBTQ+の当事者とそうでないひとが気軽におしゃべりをする『みんなの居場所』に集まるひとたちの声を皆さんにお届けしていきます。

第一弾は、２０２３年度からMixRainbow®の理事に就任した新井智尊・田辺義宗両氏にインタビューを行ないました。ゲイ向けの結婚相談所『ベストリアン』を皮切りに数々のサービスを発信され、プライベートでは２０２１年に尼崎市パートナーシップ宣誓制度にてパートナーになられております。おふたりの今までとこれからを伺いました。

インタビュアー：ポスワンのカノ―( https://poswan.com/writter/yui_kano )

出会いまで

新井さんは、小学生の頃にいじめを経験し、一時は自殺がよぎるほどの苦悩を抱えていました。中学校に上がってから、修学旅行のお風呂にて自身の性的指向が男性かもしれないと感じはじめました。その後、徐々に男性へ関心を寄せることとなりましたが、２０００年頃の日本社会ではＬＧＢＴへの理解はほとんど無く、カミングアウトすることが難しかったようです。
九州の大学へ進学し、念願の男性との交際をはじめました。その後、関西で就職しましたが、両親から結婚を急かされる度に適当にかわしたり、なんとなく過ごしていました。
人生観が変わったのは母親の介護がキッカケだそうです。「自分は誰にも看取られず孤独に死ぬんだ」という不安に襲われた新井さんは３９歳の時、一念発起し４０歳までに生涯のパートナーを見つける覚悟でゲイ向けの結婚相談所へ入会しました。

一方の田辺さんは、３人兄弟の末っ子として生まれました。幼稚園のときに男性の教育実習生に初恋をしました。当時、家族と観ていた洋画の中でゲイは嘲笑されたり、治療の対象として描かれていました。自身のセクシュアリティは〝いつか治るもの〟で両親のように異性と結婚すると信じていたため、恋心を隠すことにしました。その後、小中学生の間は、いじめにもあいました。ただ、同級生に「オカマ」と罵られたり飛び蹴りをされたりしても「嫉妬なのかな？」と独自の解釈をして深く気に留めなかったそうです。
ある日、女性の親友にゲイであることをカミングアウトしました。「私も女性をかっこいいと思う瞬間があるよ！」と言われた瞬間、自分が悪いことをしているという気持ちが和らぎました。
その後、高校時代には、インターネットを通じて出会った男性と１年ほど恋愛をしたそうです。その後、看護学生を経て看護師になり、幸せを求めて例の結婚相談所へ登録をしました。

ふたりの出会い

２０２０年コロナ禍のなか、田辺さんの父親のガンが発覚しました。母親も看護師で多くのひとの死を見届けていたはずなのに、父親を直視できないほどに憔悴していたそうです。「こんなに悲しむほどに、家族を慈しんでいたんだな」と痛感し、自分も愛するひとと家庭を築きたいという想いを持ちはじめました。

そんな折、同年７月に最初にマッチングしたのが新井さんでした。何度かプライベートで会いながら親交を深めていましたが、ある日新井さんの母親が病院に運ばれてしまいました。新井さん自身も心労からか風邪を引いてしまいます。田辺さんは思わず新井さんに「あなたのおむつ介助をさせてください」と看護師ならではの斬新なプロポーズをしました。晴れてふたりは結ばれ、１０月には同棲することになりました。

余談ですが、実は田辺さんが学生時代にアルバイトしていた新大阪のコーヒーショップは、新井さんがよく通っていたところだそうです。当時は気づいていなかったそうですが、ふたりが結ばれることは必然だったのかもしれません。

ゲイ向けの結婚相談所の設立

そこからのふたりは、迅速でした。
自分たちが経験した最高の出会いを諦めている当事者がきっと多いだろうと思い、１１月に結婚相談所をはじめる決意をしました。これまで何度も起業経験のある新井さんが調査を進めると、ゲイ当事者がやっている結婚相談所は競合がいないことが分かりました。ただ、このビジネスがすぐに利益が出ないことも分かりました。それぞれの親のこと、かけがえのないパートナーの出会いを経て、残りの人生をどのように過ごしていこうか考える中で、「やりたいことをやろう！」と決意をしました。その後の調査の結果、神戸は政令指定都市にも関わらず、未だに同性パートナーシップに関する制度がなく、ＬＧＢＴ団体もあまり動いていないことが分かりました。神戸で物件を探してすぐ一目惚れした物件に翌２１年３月に入居、５月に『株式会社H＆M』の設立、６月に結婚相談所『ベストリアン』のサービスを開始しました。

ＬＧＢＴＱ＋の問題として

２１年１０月に、尼崎市でパートナーシップ宣誓制度を利用しました。利用者が増えることで同性婚の必要性が見えてくると感じたからです。手続きの際、理解ある窓口の市職員にMixRainbow®の存在を教えてもらいました。ゲイ当事者ではあるが、積極的にコミュニティに参加などをしてこなかったおふたりが、他のセクシュアリティと出会う大きなキッカケとなりました。トランスジェンダーの方のみならず、Ｘジェンダーのひとたちと出会うことで、ゲイに限定しない結婚相談所『ベストリアンプラス』のサービスも立ち上げることとなりました。
２３年には念願の神戸で初のＬＧＢＴイベント『神戸レインボーフェスタ』を開催し、大好評を博しました。今年２４年にはさらに規模を大きくして開催する予定だそうです。さらに、ふたりの働きかけもあり、遂に神戸市でも２３年１２月から『神戸市ライフパートナー制度』がはじまりました。

MixRainbow®の理事となったふたりは、尼崎でのＬＧＢＴイベントを開催したいという理事長みのりさんの想いを胸に現在も邁進しています。

今後について

運命の出会いを果たし、よりよい社会を目指すために残りの人生を過ごすことを決めたふたりですが、今後どのようになりたいかを聞きました。

新井「さまざまなセクシュアリティがあるが、ひとと接するという部分ではどんなひとも同じだと思います。経営的な部分で難しいところはあると思いますが、今後も事業や活動を通じて頑張っていきたいです」

田辺「ベストリアンのことを〝僕にとっての保健室〟と言ってくれた会員がいました。ときには弱音を吐いたりしてきたましたが、僕たちなりに１つ１つやり遂げていきたいと思います」

---

<取材協力>
新井智尊さん、田辺義宗さん

『ベストリアン』（ https://bestlian.jp/ )
『ベストリアンプラス』( https://bestlian-p.jp/ )

当事者も、そうでない方も、月に一度の会にぜひお越しください。
『みんなの居場所』( https://www.mixrainbow.jp/event/ )